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東京高等裁判所 平成5年(ネ)355号 判決 1994年10月13日

控訴人

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

金住典子

小山久子

被控訴人

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

北村一夫

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人と被控訴人を離婚する。

三  控訴人と被控訴人間の長女夏子(昭和六二年九月二四日生)の親権者を被控訴人と定める。

四  控訴人の当審における財産分与および養育費支払いの申立を却下する。

五  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  控訴人

1  主文第一、第二項と同旨

2  控訴人と被控訴人間の長女夏子の親権者を控訴人と定める。

3  (当審における新たな申立)控訴人は被控訴人に対し、財産分与として、離婚認容判決が確定した日から三年間、毎月一〇万円宛(一か月に満たない月は日割りで)を支払え。

4  (当審における新たな申立)控訴人は被控訴人に対し、長女夏子の養育費として、離婚認容判決が確定した日から長女夏子が成人に達する月まで毎月五万円宛(一か月に満たない月は日割りで)を支払え。

5  主文第五項と同旨

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要

事案の概要は、原判決二丁裏六行目と七行目を「また、控訴人は長女の親権者を控訴人と指定することを求めるほか、当審において、控訴人から被控訴人への財産分与と養育費の支払いを命ずる裁判を申し立てた。」と改めるほかは原判決事実及び理由「第二事案の概要」欄記載のとおりであるからこれを引用する。

第三  判断

一  当裁判所が証拠(甲一ないし四、七、八、乙一、三、控訴人・被控訴人各本人)により認定した事実は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決二丁裏一一行目から八丁表九行目までと同一であるからこれを引用する。

1  原判決四丁表一一行目「その影響」から同五丁表末行までを次のとおり改める。

「控訴人は婚姻後も自分の両親や親族との円満な関係を続けたいと考え、特に、両親に対しては何かと気遣いをし、長女夏子を実家に連れて行きたがったり、電話で近況を報告し、あるいは、一人で実家に顔を出そうとしていたが、被控訴人は控訴人のこうした態度は新家庭を築いた夫としてとるべき態度でないとして強く嫌悪し、控訴人の実家に行くことをいやがったり、控訴人が実家と連絡をとることをひどくなじるようなことが重なった。一方、控訴人は被控訴人のこのような反応について理解することができず、逆に被控訴人がその両親宅を度々訪問し、また、両親の経済的援助を含む心遣いを喜び、訪ねてくるのを喜々としてもてなしている様子をみて、控訴人の両親に対する態度との落差に立腹し、控訴人と被控訴人との間では、控訴人の実家との関わり方を巡ってしばしば激しい口論が生じ、被控訴人が刃物を持ち出すこともあった。例えば、被控訴人が、両親を訪ねに行こうとする控訴人に異を唱え、親離れしていない馬鹿息子などとなじったこともあるほか、家族旅行に出かけるにあたって、控訴人が老齢の祖父の万一の場合を考え、連絡先を伝えようと実家に電話をしようとした際、憤激してハサミで電話線を切断するまねをし、控訴人が「切るなら切れ。」と言うと、激高して包丁を持ち出しこれを被控訴人の胸元に突き付けたり、「死んでやる。」などと言って自身の胸を包丁で突く仕草をしたことがあった。」

2  同五丁裏一行目の冒頭に「4」を加入し、同六丁表一一行目から同丁裏六行目までを「控訴人はたいしたことはなく心配はいらないと言って被控訴人をなだめたが、被控訴人は夏子の将来を心配して思い悩み、そのころ訪れた控訴人の母から控訴人の姉も同様の遠視であることを聞かされ、遺伝であるとして控訴人をひどく責めたて、夏子の遠視の問題も夫婦間の新たないさかいの原因となった。」と、同八丁表二行目と七行目の各「当法廷」をいずれも「原審」と各改める。

二  右認定の事実によれば、控訴人と被控訴人が別居してから既に約五年が経過し、控訴人と被控訴人との同居中の確執は強く、控訴人は被控訴人と同居する意思を喪失しており、今後、控訴人、被控訴人双方が互いの心情を理解したうえ円満な夫婦関係を取り戻す兆しは全く見えないというべきであるから、控訴人、被控訴人の夫婦関係は回復が著しく困難な程度に破綻しているといわざるを得ない。

そして、右破綻は両親との関係等婚姻前の円満な家族関係を維持しようとする控訴人と、その遮断による新たな家族関係の形成を求めた被控訴人の間での互いの立場への理解の不十分さに由来するものとみることができるが、双方の性格上の問題に寄与するところが大きく、破綻につき控訴人に主たる責任があるということはできないから、控訴人の離婚請求は理由があるというべきである。

長女の親権者については、長女の年令、現在被控訴人が長女を養育していることなどの事情からして被控訴人を親権者とするのが相当であると認める。

三 控訴人は、当審において、被控訴人に対する財産分与、養育費の支払いを命ずる裁判の申立をするが、民法七七一条、七六八条二項、人訴法一五条一項の財産分与の申立、民法七七一条、七六六条一項、人訴法一五条一項の養育費の申立は、いずれも各請求権の具体的内容の形成を求めるものであるから、各請求権者を申立権者として予定していると解することができ、義務者の側からの申立は法の予定しないところであるのみならず、実際上もこれを認める必要性は考えられない。また、財産分与の要否、分与の額、方法や養育費の額を判断するについて、義務者が相手方の権利実現のため十分な主張、立証活動をすることは期待しえないし、裁判所が職権で探知することにも限度があるから、義務者の側からの申立を認めることは実質的にみても妥当ではない。よって、控訴人の右各申立は不適法として却下するのが相当である。

四  以上のとおり、控訴人の離婚請求を棄却した原判決は相当でないからこれを取り消して右離婚請求を認容し、長女夏子の親権者を被控訴人と指定し、当審における控訴人の財産分与、養育費の申立を不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官時岡泰 裁判官小野剛 裁判官山本博)

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